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    音楽監督の佐橋佳幸さん・亀田誠治さんの対談記事が公開されました!

    早逝の天才作・編曲家・大村雅朗没後25周年トリビュートコンサート『大村雅朗 25th Memorial Super Live』の音楽監督を務める佐橋佳幸と亀田誠治。数多く大村作品に参加している佐橋と、大村サウンドに憧れ、多大な影響を受けている亀田に、両方の視点から大村サウンドの魅力、そのプロデュースワークの秘密をクロスインタビュー。“いい作品”を作ることに命をかけていた、稀代の音楽家・大村雅朗の実像――。
    ――大村雅朗さんはレコーディング現場ではどんなプロデューサー、アレンジャーだったのでしょうか? 佐橋 大村さんはどの現場でも常にいい作品を作るために、命をかけて仕事と向き合っていたイメージです。その気持ちが誰よりも強かった。例えば僕が参加した大江千里さんとのクリエイティブでは「いやいや、そうじゃなくてもっとないですか、大村さん」「いやそうじゃなくて、もっとないの?千ちゃん」みたいなマジなやり取りを繰り広げながら取り組んでいました。でもこの熱い想いのぶつかり合いが、作品に出ていたと思うし、みんな新しいものを作るのに真剣だった時代だと思います。それは今が違うという意味ではなくて。いつも、そのアーティストの代表曲を作るという思いが強い故に、「こうしたい」という気持ちが前のめりになって、「もっとこうならないかな」ということへのエネルギーが溢れていました。そういう意味では、わがままな部分もあったと思います。僕はそこが好きでした。
    亀田 僕は昨年、松本隆さんの作詞活動50周年トリビュートアルバム『風街に連れてって!』を松本さんと一緒に作らせて頂いたんですが、あの穏やかな松本さんでもとにかく「よくしたい!」という強い思いの塊なんです。松本さんと大村さんは、一緒に歩まれてきている中で、2人の間だけでも相当なエネルギーの交換があったと想像できます。ある時は、それがプラスの方向に向かうし、ある時は反発し合うこともきっとあったと思います。それが大村雅朗さんが松本隆さんに盟友と呼ばれた所以かなと思います。
    佐橋 大村さんとのレコーディングで思い出すのが、僕が大村さんが思っているイメージと違うプレイをした時に、コントロールルームに呼ばれて、ヘッドフォンでCDを聴かされるんです。それはその時レコーディングしている曲の感じとは全然違う、最新の洋楽で、大村さんが「聴いた?こういう感じのことを今回やってほしいから、佐橋くんがさっき弾いた感じは、今じゃないんだよね」って言われて。大村さんの口癖なんです「今じゃないんだよねぇ、それ」っていうのは。これは大村さんと関わった人は全員が知っていると思います(笑)。もしご存命だったら、今、2022年のモードが入っていないと、絶対に嫌な人だった。スタジオで仕事をしていると、大村さんが大量にCDを買ってくるんです。その時話題になっているものは全部聴いていました。
    亀田 大村さんのCD伝説は聴いたことがあります。僕は25歳までアマチュアだったので、色々なスタジオに自分の友達がアシスタントで入っていたんですが、彼らから「大村さんが何十枚もCDを持ってきて、それをミュージシャンにも聴かせてる」という話を聞いていました。それを聞いて自分もそれやろうと思って(笑)。当時はCDをそんなに買えないのでレンタルで大量に借りてきて、ひたすら聴きました。プロになってからちゃんと買えるようになってからも、ジャケ買い、レコメン買い、旧譜買い、とにかく買い漁って、あらゆる音楽を聴くようにしました。他にお金を使わなかったので、結婚する時はCDと洋服しか持っていなかった。妻がびっくりしていました(笑)。
    佐橋 それは僕も同じ(笑)。大村さんも洋服とCDしか買ってなかったので、色々な意味で僕達は大村さんの影響を受けているということだ(笑)。
    ――亀田さんは大村さんが手がけた「そして僕は途方に暮れる」(大沢誉志幸)を聴いて、人生が変わったとおっしゃっています。 亀田 ベース云々というよりも聴こえてきたサウンドが、当時20歳の僕にとってとても新鮮で、こんなサウンドが日本にもあるんだって衝撃を受けました。「僕がやりたいのは、こういうことだ!」と。それは曲のイメージを決定づけるような、トータルにサウンドを作っていくことなんだと確信しました。コード感、音色、打ち込みのタイトさに絡むミュージシャンのグルーヴ、切ない歌詞、もう全部よくて。今でもこの曲に出会った時の驚きと感動を目標にしてしまう感じはあります。
    佐橋 大村さんが作る音は基本的に品があるんです。
    亀田 音色でその心模様のグラデーションを彩っていくのが、大村サウンドの真骨頂だと思います。僕も自戒の意味を込めて言いますが、シンセサイザーって用法・用量を間違えると、本当に残念って感じになるんです。でも大村さんはひとつも外さなかった。
    佐橋 本当にそう。一曲も外していない。
    亀田 当時のレッキングクルー、スタジオミュージシャンの皆さんの本当に素晴らしい演奏と、シンセと打ち込みが同期していて。同期というか“共存”している感じがたまらないです。今回のコンサートでも演奏してくださいます、ドラムの山木秀夫さんやギターの今剛さんや、この頃のスタジオミュージシャンの方たちの音が大好きなんです。
    佐橋 みんな本当にうまいよね。
    亀田 僕は今でも、当時のスタジオミュージシャンの方の音は、聴いただけで誰の演奏なのかわかります。やっぱり職人の音なんです。そして音が冷たくないんですよ。それは大村さんの作品だからということもあるかもしれないけど、大村さんのレコーディングに参加しているスタジオミュージシャンの音は、みんなちゃんと“クリエイト”している感じがするんですよね。
    佐橋 それはあると思う。大村さんの作品だけは本当に品質保証がされている感じがあって。亀ちゃんの言う通りで、ミュージシャンの技量に頼るだけではなくて、丁寧にちゃんと作られているものの方が、僕も亀ちゃんも好きだよね。
    亀田 自分もそうでありたいし、一作一作そうやって作っている自負はあります。
    佐橋 大村さんの音楽に一貫しているのは、とにかく暗い曲も明るく感じるんです。明るいとか暗いって使い方が違うかもしれないけど、“こっちにくる音楽”というか。
    亀田 これも適切な言葉かどうかわかりませんが、大村さんのアレンジって本当にキラっとしているんですよ。
    佐橋 それが言いたかった(笑)。
    亀田 屈託がないんです。それは能天気という意味ではなく、暗い部分もちゃんとポップに届けてくれていると僕は感じていました。それと、当時の先輩アレンジャーの方々によって、時代の音が打ち込み中心のサウンドになってくる中で、打ち込みを取り入れながらも、結局その方が影響を受けた60~70年代歌謡曲やフォークから抜け出せていない。そんな音楽が増えていました。でも大村さんだけは大きく変わったと思います。それが「そして僕は途方に暮れる」なんです。大村さんは古いものに新しい技術が入ってきたという感じではく、過去を引きずらず、しかも否定せず、音楽全部が新しくなった感じがしました。そこがかっこよくて、僕はもう大好きでした。
    佐橋 全く同感です。そういうまさにサウンドメーカーだったと思います。大村さんが活躍されていた時は、今、僕や亀ちゃんがやってるようなプロデューサーという仕事が業界内で定義されていなくて、今思えば、大村さんがやっていることは、完全にプロデューサーです。
    亀田 大村さんは編曲家と紹介されることが多いですが、完全にプロデューサーだと思います。
    ――今回のライヴは、大村さんと仕事していた佐橋さんと、大村サウンドの虜になっていた亀田さんが、大村サウンドを後世に繋いでいくために、現代の空気を纏った音でライヴを行なう、というところが大きなポイントになっていると思います。 亀田 佐橋さんはレコーディング現場で大村さんと一緒に仕事をされて、その後も大村さんが手がけたアーティストと仕事をされていて。僕は残念ながら大村さんにお会いしたことはないのですが、宅録に励んで、楽器を一生懸命練習していた30年以上前、大村雅朗さんという方にいかに影響を受けたか、勝手ながらバトンを受け取っていますということを今回のライヴを通して伝えて、またバトンを繋いでいきたいです。
    佐橋 大村サウンドを表現してきた人ばかりです。亀ちゃん以外のメンバーは皆、大村さんとはお仕事をした経験があるメンバーですが、何より亀ちゃんを筆頭に、大村サウンドを熟知している人ばかりです。出てくださるアーティストの皆さんの大村さんへの思いを尊重したセットリストになっています。
    亀田  出演されるアーティストの皆さんがやりたいものを、歌いたいものを大村さんへの思いと共に披露する2日間になると思います。
    ――お二人が選曲したアルバム『大村雅朗の奇跡』(9月21日発売)のリマスタリングを手がけた砂原良徳(まりん)さんも、両日DJとしてプレイしますが、こちらも楽しみです。 佐橋 大村さんはテクノを上手に取り込んでいたじゃないですか。そこにやっぱり当時若者だったまりんは感動して、いいなと思って聴いていたみたいです。だから、その思いを思い切り出してくれればいいよって言いました。
    ――松本隆さんと木﨑賢治さんも登場されて、大村さんの人となりや素顔、仕事の仕方など興味深いお話も聞けそうです。それを大村さんの地元・福岡でやることで、より伝わってきそうです。 亀田 僕達も本当に楽しみにしています。
    佐橋 福岡でやるというところからスタートした企画なので、そこに大村さんとその音楽を愛する人だけが集まって、ライヴをやりたかったんです。大村さんって最後まで福岡(博多)弁が抜けない人で、ものすごくオシャレだけど、ずっと訛りがあるしゃべり方で、そこも親近感を感じさせてくれて、愛されたところだと思います。お客さん同様我々も2日間大村サウンドにどっぷり浸りたいと思います。

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